大判例

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福島地方裁判所 平成4年(行ウ)4号 判決

原告

小林孝壽

右訴訟代理人弁護士

高橋一郎

被告

喜多方市長 飯野陽一郎

右訴訟代理人弁護士

今井吉之

事実及び理由

第三 当裁判所の判断

一  〔証拠略〕によれば、本件道路の敷地が国有地であり、市が本件道路の敷地を使用する権利は、道路法施行法五条一項に基づく使用貸借によるものと認められる。そして、使用貸借権は、その脆弱な権利の性質からして用益物権と同様に考えることはできず、地方自治法二三八条一項四号にいう「地上権、地役権、鉱業権その他これらに準ずる権利」には含まれないと言うべきであるから、同法二三七条一項の「公有財産」に当たらず、同法二四二条一項、二四二条の二第一項にいう「財産」ではない(最高裁平成二年一〇月二五日判決・判例時報一三六七号九頁)。

したがって、原告の請求のうち、妨害物撤去に関する怠る事実の違法確認の訴えは、不適法である。

二1  次に損害賠償請求権の不行使の点につき検討するに、前示争いのない事実、本件証拠及び検証の結果を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(一)  本件道路に存する障害物は、路面舗装が完了した区間には存しないものの、舗装区間から稲荷町通り線に至る区間において、愛宕神社の社殿に通ずる参道石段のうち一段目の敷石及び縁石の一部分と、これに対応して本件道路敷地内を横断するように埋設され、右石段に至る参道部分を形作る境界石列二列を認めることができる。また、舗装区間から諏訪神社通り線に至る区間では、本件道路敷地の幅員の過半が、前示の民家敷地となったままの状態である。

(二)  土地改良事業の施行から現在に至るまでの経過の概要は次のとおりである。

(1) かつて本件道路の辺りはいわゆる赤道となっていたが、前示の土地区画整理事業の施行により、昭和三一年三月一九日、市道として路線決定され、その敷地が国の所有に帰することになった、ところが、本件道路が愛宕神社の境内を横断することになったので、当時の愛宕神社の宮司から、神社の境内に道路を設けることは神社の尊厳を侵し、宗教行事を行うことに支障を来すとの理由で異議申立がなされ、これに対し、当時の市長が、愛宕神社が存続する限り道路は築造しない旨を書面で回答して、本件道路の工事に着工しなかった。

(2) その後、愛宕神社と龍現寺との間で、昭和三八年ころ、三七番と四〇番の境界について争いが生じて訴訟となり、昭和四七年にようやく右市長のとりなしで右境界の確認書を取り交わし、訴えが取り下げとなったが、その間も工事着工が凍結されたままの状態が続いていた。

(3) 市は、昭和六〇年ころ、本件道路の整備促進について原告の陳情を受けたこともあり、同年三月二〇日、本件道路を市道路線として再度認定したうえ、当時の現況のまま供用を開始し、昭和六一年になって本件道路の整備に着手しようとしたところ、愛宕神社が、前記回答書の存在を理由にして工事の実施に異議を唱えた。そこで、市は、そのころから愛宕神社と月二回程度の頻度で説得交渉を重ねる一方、昭和六二年には、本屋町通り線とその交差部分の工事を実施して前示の舗装区間を完成させ、残余の区間についても、愛宕神社に対し、具体的に道路の範囲を現場で説明する段階まで至ったが、平成四年、原告が本訴を提起したことにより交渉が中断し、未だに着工することができないでいる。

2  以上の事実関係を前提にして、損害賠償請求権の存否を考えてみるに、まず、本件道路は、道路現況図に示された範囲において供用が開始されていると認められるところ、本件道路上に存在する工作物は、前記一の参道石段のうち一段目の敷石及び縁石の一部分と、本件道路敷地内を横断する二列の境界石である。そして、検証の結果によれば、当該道路敷地部分については、道路部分の区画が形成され路面に砂利が敷きつめられているとはいうものの、未だ外溝設置及び路面舗装の工事が着手されておらない段階にあり、隣接地との境界もきちんと整序されているわけではなく、道路交通の機能も未だ十全にこれを発揮しておらない段階にあり、路面及び境界に多少の凹凸が存在しても当面の交通に支障はないし、外溝設置・路面舗装等の工事が完成した暁には、路面及び境界に存在している凹凸は除去整序される見込みである。そして、右敷石等のうち、本件道路にはみ出している部分はわずかの面積しか占めておらず(〔証拠略〕)、また、右境界石列の占める面積もさほど大きくなく、しかもすべて埋設されているので(〔証拠略〕)、結局、いずれの存在も本件道路の交通の妨げになっていないと認められる。してみると、このような占有の範囲、態様をもっては、社会的に見て未だ損害が発生していないと評価するのが相当である。なお、被告において、右道路敷地部分につき現在まで改修工事を実施しないでいる措置については、専ら道路管理上の行為に属し財務会計上の行為ではないから、本件訴訟においてその措置の当否を問題にすることはできない。仮に、占有料相当の損害が発生していると考えたとしても、検証の結果から窺われる右占有面積からして、その損害額が僅少となることが推認できることのほか、右工作物が存在する部分は、かつては愛宕神社の境内地であったのが、後に土地区画整理事業が施行されて、本件道路の敷地部分が国有となったがために占有権原を失い、その後、工事を実施するために市と同神社との間で交渉が続けられてきたものの、本訴の提起により中断しているという事情も含めて考えると、市が損害賠償請求権を行使しないことが直ちに違法であるとは言い難い。

また、舗装区間から諏訪神社通り線に至る区間については、現況のまま供用開始になっているから、前示の民家敷地部分が本件道路を占有しているとは言えないし、その他には本件道路上に占有物は存しないので、右区間の占有侵害の事実は認められない。ただ、右民家敷地が、本件道路予定地上にあることをもって、市の有する本件道路敷地の使用貸借権を侵害していると考える余地もあるが、対価なくして目的物を使用収益することを内容とする使用貸借権は、借主が目的物を使用収益することを消極的に認容するだけの、いわば貸主からの恩恵に基づいて成立する債権であって、これを第三者に侵害されたとしても、所有者たる貸主に損害賠償請求権が生ずることはともかく、貸主には、侵害した第三者から使用収益を回復して借主に使用させる義務はないのだから、借主が目的物を使用できなくとも、これが直ちに損害となるとは言えない。

また仮に、この点につき損害が発生するとの立場に与したとしても、前同様に前示の経緯に照らして、市において損害賠償請求権を行使しないことが違法であるとは言い難いと言うべきである。

したがって、原告のその余の請求である損害賠償請求権の不行使の点については、理由がない。

(裁判長裁判官 木原幹郎 裁判官 手島徹 石垣陽介)

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